「N・H・Kにようこそ!」の感想

N・H・Kにようこそ!_1
(C)2006 N・H・Kにようこそ!製作委員会

被害妄想、幻覚、幻聴。

そういう闇を抱えた登場人物たちがコミカルに描かれる

この後詳しく書くが、そういった精神的な症状に関して、驚くほど真正面から描いている

身の回り全てが自分を馬鹿にしているように妄想してしまう様子や、

外出することを拒絶するあまり、理由を探して外出しない自分を正当化してしまう様子。

嘘をついて目先の問題を先送りにしてしまう様子など、

実際に存在する精神的な問題を脚色することなく、キャラクターにしていた

おまけに、引きこもり、依存関係、マルチ商法、自殺など、

とにかく、現代社会に溢れる闇をとことん盛り込んだような展開がとても面白い

僕はそういう話題については当事者でもあるし、興味も尽きない

現代社会における代表的な闇をそのまま投影したような登場人物たちが、これまた現代社会における代表的な闇を体験していくような、

面白すぎるアニメだった

佐藤くんの性格

佐藤くんの性格がとてもリアルだ

ぱっと見アホで、たまにクズな一面も見せる

すぐに嘘をつき、そのしわ寄せに苦しむ

幻聴や幻覚に支配され、被害妄想に苦しむ

そして、陰謀が自分を陥れていると妄想している

精神病の症例のみで作り出されたようなキャラ設定だ

そして、それをコメディー調に見せているこのアニメはとてもすごい

ぼざろにも同じ魅力を感じて衝撃を受けた

ぼざろのぼっちちゃんは、人づきあいが苦手な陰キャ特有の、すぐにテンパってしまう挙動をそのままコミカルに描くことで、これまでにない本物っぽさを見せている

面と向かって面白いことは言わないけど、頭の中ではいつも面白い受け答えをして、一人で永遠に脳内でしゃべり続け、楽しんでいるような人間を、キャラクターにしたのがぼっちちゃんだ

そして、この、N・H・Kにようこそ!の佐藤くんも、同じような雰囲気が感じられた

いや、このアニメの場合は登場人物のほとんどがそんな感じだ

岬ちゃんなどに関してはまたこの後書くが、

この、妄想性障害や幻覚をそのままコメディーにしてしまうという豪快な切り口がボザロよりもずっと前に行われていたことが面白い

ちなみにだが、

僕がこのアニメについて共感するのには訳があり、

大学時代。仲の良い友達がまさに、佐藤くんみたいな感じだった

彼の場合はNHKによる陰謀ではなく、通信会社大手のNTTが自分を監視しているという妄想に取りつかれていたようで、

確か、彼が病んでいたころ、僕と彼で学科の成績下位を独占していた頃、

NTTドコモの社員兼教授みたいな人が講師をしている授業があった

それを受けてから半年くらい。「俺はNTTに監視されている」みたいな良くわからないことをしきりに言っていた時期があった

その後彼は僕と同じタイミングで留年し、別の大学に編入していった

N・H・Kにようこそ!の佐藤くんを見ていると、たまに、編入していった彼のことを思い出す

その人も、純粋ないい人で、親しみやすく、愛すべきアホみたいな感じだったが、

たまに、ズルいことをする

見え見えの嘘をつき、バレていないとでも思っているのかわからないが、指摘する理由もないので、僕はそれ以上追及はしない

あとになってしわ寄せがきて、本人もつらくなっているのかもしれない

勝手ながら、僕にもその気持ちはわかる

小さな嘘をついた後は罪悪感を抱くし、その嘘を本当にするために過度に頑張りすぎて、体を壊す

僕の場合は嘘をつくのが癖になっているというわけでもないので、そこまで大きな問題になってはいないが、

佐藤くんのように、無意識のうちに嘘を嘘で固めてしまう人間もいるだろう

そういう人には見覚えがあり、そこに妙なリアリティがあった

今思えば、僕も、彼に対して、岬ちゃんみたいに、人を見下すのも手だというアドバイスをした気がする

大学の食堂で、地方の実家に帰って同級生と自分を比べてみろ。東京の大学に行っているだけですごい奴だぞ。と言うアドバイスをしたのを覚えている。

東京での水準で自分を測ってはいけないと、東京は全国の猛者たちが集うハイレベルな場所だからだと、

つまり、遠回しに、他人を見下して自分を保て、というアドバイスをした

それは、岬ちゃんが佐藤くんにしたアドバイスに似ている

佐藤くんというキャラ、そして、僕がしたアドバイス。

このアニメにここまで僕の人生と共通点が多いのはそれがやはり社会問題として世間一般に蔓延していることだからか?

ストーリーが面白いという点でも、普通に楽しめるアニメだが、

このアニメはそれ以上に、他のアニメにはない臨場感がある

マルチ商法と恵の性格について

マルチ商法にはまっている恵だが、これもまたリアルだ

恵は兄に依存している

依存しているため、食事を作り続け、マルチにはまってしまった

委員長という、まじめで余裕のない性格がこれまたリアルだ

兄を見捨てることができないという正義感がエスカレートし、最後、兄がいなくなった後、空虚な表情をしている

あとは、恵がファミレスで勧誘をする様子も。やはりマルチ商法の手口を忠実に再現していると思った

実は、恵に似たキャラクターも僕は知っている

大学のころ、高校の同級生から数年ぶりに連絡が来たかと思ったら、マルチ商法の説明会の誘いだった

僕は、社会に蔓延る闇を観察するため、行ってみることにした

そこはやはり、ファミレスで、地下の喫煙室がマルチのグループに占拠されていて、異様な雰囲気だった……

というのは置いといて、

やはり、その同級生は恵のようなとても真面目な性格だった

そして恐ろしいのが、その同級生は別に高校のころからガラリと変わったというわけでもなく、高校のころと同じような真面目な話し方で僕を勧誘しようとしているところだった

これも、「N・H・Kにようこそ!」ではリアルに表現されていた

アニメでは髪の色が変わってはいたが、

恵は委員長と呼ばれているだけあって、クラスをまとめていた生徒だった

ただ、佐藤くんの回想シーンでもある通り、その熱意は伝わらず、空回りからの暴走、ヒステリーを起こしているような感じだった

マルチ商法に引っかかるのはそういう、まじめで素直な人なのかもしれない

僕の高校の同級生はそうだった

これも、このアニメを見ていて心当たりがあるくらいのリアルな展開の一つだ

岬ちゃんについて

岬ちゃんは幼少期からの複雑な家庭事情、父親からの暴力などがあり、ああいった性格のキャラクターになった

手を上げられそうになると過度におびえたり、トラウマを抱えている

その影響からか、人よりも優位に立ち、支配し、監視することで安心しているのかもしれない

ただ、そうして保っている自分の平常心の裏に、罪悪感を抱えているのでは

だから時折、自分のことをクズ人間だとか言って、落ち込んでいる

自殺も、本当は死にたいのではなく、見てほしかったのでは?

自分を見てほしいがために自殺をする

本人にとって命というものにそこまでの価値を感じていたいので、死んで自分を見てくれるのであればそれはとても心地の良い事だったのかもしれない

そういうことは当の本人もわかっていない

嫌だから逃げる。というのが自殺の原因だが、その裏には、自分を見てほしい。自分に注目してほしい。という気持ちの表れだと思った

音楽について

OPのパズルは、ようつべで聴いたことがある曲だった

NHKにようこそのアニメを見たきっかけも、この曲が聴いてみたかったからというのがある

特に、「どこに行けばいいの、そんな顔してる君と」

という歌詞は、このアニメにもマッチしているし、多くの人に共感される歌詞だと思った

新しい環境に身を置こうとする人が次にどうすればよいのか弱弱しく周囲をうかがっているような情景が思い浮かぶ

僕は、中学のころ、進学した学校での初日、教室に行けばいいのか体育館に行けばいいのかわからない自分を思い出し、懐かしい気持ちになった

あとは、OP中の佐藤くんと岬ちゃんを繋ぐ水玉模様も、草間彌生のようなアプローチで、鬱や幻覚を表しているような気がした

あと、EDは2曲あるが、そのうちのOP1、踊る赤ちゃん人間も、パンチの効いた曲でよかった

人は生まれながらにして同じはずなのに、社会で生きていく中で不思議と優劣が決まり、落ちぶれていく

その不条理を嘆きつつも、それに目を背けていつまでも庇護されたいという人間の欲望を赤ちゃんに例えて全力で歌っている

この曲も、アニメの登場人物たちに重なるところがあり、とても良かった

総じて言うと

ストーリーで言うと、超絶面白いというわけでもなかったが、明らかに、その辺のアニメよりも断然に面白かった

そして、同時に。社会の病みをここまで正面から描いているというアプローチ自体に感心する

それは僕がそういう話題に敏感で、かつ、自分もナーバスなタイプの人間なので、勝手に共感しているだけかもしれないが、

少なくとも、こうしてブログ記事にまとめたくなるほどには感動した

作画に関しては、古き良きアニメ黎明期というような感じで、最近のアニメにはない、抽象的で憂鬱とした雰囲気が久しぶりに見れた気がした

音楽も良く、OPEDもそうだが、アンビエント系の劇伴など、独特な雰囲気を持っているのが良かった

このアニメの監督は山本祐介という人らしい

ヤマノススメで、ものすごく大々的に監督の名前を出していたので、印象に残っている

N・H・Kにようこそ!でも、だいぶ印象的に監督の名前を出していた

個人的には、監督の名前はもう少しさりげなく出すものだと思う

自分について

このアニメに共感している自分はどこかで佐藤くんなどと自分を重ねているからかもしれない

僕も、社会のレールの上を走りたくないという点においては、佐藤くんと同じだ

僕の場合は3DCGでありがたいことにお仕事を頂けているが、

実家に籠って生きているという点で、ぼくは踊る赤ちゃん人間みたいなものだと思った

ほかにも、岬ちゃんのように、人よりも優位に立つことで自分を保ったり、自分を傷つけることで愛してもらおうとしたり

山崎のように、敷かれたレールに抗おうとしたり、

運よくうまく回っている僕だが、やはりいろいろと問題を抱えている

僕は、あのアニメの登場人物として、違和感なく溶け込めるくらいの人間だと思う

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